リハドクターKのたわごと

医学医療への雑感を書き記します

新潟・研修医自殺の件に思う

昨年、新潟市民病院で働いていた研修医が自殺するという事件が起きました。家族が『これは労災では?』と提訴し、先日、新潟労働基準署は

 

『過労が原因』

 

ということで、労災認定をされました。

 

ニュースからの報告をみると、その研修医さんは自殺する前の数ヶ月の平均残業時間は月187時間。最高は月251時間の残業時間だったとのこと。

 

時間だけ見れば、全く休みの日がなく、1日平均で6時間以上の残業。当直や呼び出しなどの拘束時間を考えたら、数時間の寝る時間くらいしか自分の時間は残されていなかったかもしれません。肉体的にも精神的にもかなりキツかったろうなと想像されます。

 

実は私も医者になって3年間はこの研修医さんと同じような生活をしていました。この研修医さんほどではありませんが、朝8時くらいに病院に入ると帰るのは大体24時以降。時々当直が入り、丸1日病院に監禁された後にも普通に次の日の夜まで働き、気がつくと40時間連続勤務や、最高で56時間連続病院拘束なんてこともありました。さすがにパンツがなくなってうちに取りに行きましたが。当直や拘束呼び出し、休日勤務を考えたら月200時間くらいは時間外労働してたように思います。

 

連続勤務で自分自身が死ぬ思いをしたこともあります。2日徹夜でさすがに眠かった時に用事で車を運転した時に、途中で寝落ちしてしまい(居眠り運転)、気がつくとセンターラインを超えていて肝を冷やしました。対向車線に車が走ってなくて本当に良かったです。

 

自分自身も医者の激務については医者になる前から長時間労働、長時間拘束は当たり前と教えられたので、

 

『医者は働いていて当たり前。』

 

という考えであったし、これが普通という認識でした。そして医者には労働基準法は適応されないんだよ、とも言われてきました。だから

 

『そういうものなんだぁ。』

 

といった感じだったのです。

 

20数年前、このように働いてばかりいましたが、それでも精神を病まなかったのは、おそらく上司の先生に恵まれたこと、そして信じてもらえないかもしれませんが、仕事が好きだったことが最大の原因かなぁと思います。

 

そして何よりこのころ、患者さんが今に比べるとおおらかだったように思います。いわゆるモンスターが少なかったので比較的精神的に楽だったような気がします。

 

年配の先生はこの研修医の自殺に関して、

 

『私の方が若いころはるかに仕事していた。こんなの根性がないだけだ。』

 

とか切り捨てる方がいらっしゃいますが、私はそうは思わない。昔と今では置かれている環境が全く違う。

 

特に今は病院の生き残りのためにいかに経費を使わずに病院の利益をだすか?が強く意識されている。それは公的病院でも同様に利益を出さなくてはいけないという使命があり、やたら医者は働かされる。そして医者の時間外手当は削減されるけど、サービス的に働かせられるケースは多い。

 

また病院は効率史上主義になり、細かいところ、どうでもいいようなことまで医者に押し付ける。これはなかなかストレス。

 

後、病院内のスタッフは独特な方、変な人が多いので人間関係を保つのがたいへん。下手したらどの社会でもあるように『イジメ』のターゲットとなり、それだけでもストレス。

 

そして最後に、クレーマー患者が増えたことが大きなストレスだと思います。一人でもそういった患者を抱えると本当に辛い。急性期病院は患者を選べないから、たいへんだと思います。

 

今の後期研修医から若い勤務医をとりまく世界はたいへんだと思います。自分の力だけではどうにもならないことも多いです。自分の力でどうにもならないとき、そして精神的肉体的にも辛く耐えづらくなったら、すぐにでも休んだ方がいいし、休めなかったら辞めた方がいい。勤務の辛さで死を選ぶのはバカらしい。

 

医者に必要なのは強靭な精神力と体力、もしくは全く空気を読まない鈍感力かもしれません。後者を持っている私は実は医者向きなのかもしれません。

 

ひまわりをみると本当に元気になります。辛いことがあってもすぐに忘れられる心のゆるさも必要ですね。

 

 

 

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